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津家庭裁判所 昭和54年(少ハ)2号 決定 1979年4月20日

少年 N・Y(昭三四・四・二一生)

主文

少年を昭和五四年四月二一日から同年七月二〇日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

(申請理由の要旨)

少年は、昭和五三年三月二三日当裁判所において特別少年院送致の決定を受け、愛知少年院に収容されて矯正教育を受けてきたものであるが、院内においては概ね順調な処遇経過をたどり、生活態度の改善も一応目標に達したので、昭和五四年三月一日には一級上に進級するとともに、仮退院の申請がなされるのに至つたものである。他方、帰住先については、当初実母の許へ予定されたが、その後実母は連絡のないまま行方不明となり、やむなく更生保護会への帰住を検討した結果○○○○会への帰住が調整できるに至つたものの、少年は未だ依存傾向が残り、時に周囲に同調して追従的に行動しがちである点に鑑みると、上記保護会における新たな生活環境への定着には今後相当の期間が必要であると見込まれるところ、少年は昭和五四年四月二一日をもつて成人に達し、そのまま退院させれば環境調整を充分に行うことができなくなるので、更生援護のために成人後さらに3ヶ月の保護観察を継続する必要がある。

(当裁判所の判断)

処遇経過は概ね申請理由のとおりであり、今後、かねてより指摘されてきた性格上の負因を充分に理解し、少年の社会的自立を促すに足る安定した帰住先さえ得られれば、このまま退院させることも十二分に考えられる少年である。

そこで、帰住先について検討するに、実母は、少年の在院中一度も面会に赴いたことがなく、時折手紙を寄せるのみで、少年の受入れについてはほとんど関心を示さず出院後の生活設計も全く考えていないようであり、しかも、実母自身、実父と死別後は、複数の男性と同棲を繰り返し、その間ほとんど少年とも居を異にして放任同然にしていたものであつて、最近実母が身を寄せていた義兄の言によると、昭和五三年末ころから又新たな男性と同棲を始めているというのであり、その生活状況は勿論のこと住居さえも把握できない状況にあるほか、少年が家庭から離反し一連の非行に及んだひとつの要因が、かかる実母の異性関係にあつたことなどを考慮すると、実母の許へ帰住させることにはなお多くの問題が残されていると言わざるを得ない。また、少年には実兄(当二四歳)がいるものの、同人も在院中一度も少年と接触がなく、住居も不明であるので、帰住先として考える余地は全くない。

以上のとおり適当な帰住先が見出せない以上、さしあたり更生保護会への帰住を検討せねばならず、とくに申請理由に掲げられた性格上の問題点並びにこれまでの頻回転職歴を併せ考えると、出院後は同会へ帰住させて適切な職に就かせ、安定した生活環境のなかで社会的自立を促し、もつて再び罪を犯す危険を防止することが極めて必要であると判断されるところ、現行法のもとでは、退院者は更生緊急保護法による更生保護会の更生保護を受けることができず、その他の保護観察所等の援護を受ける道もない。そこで、上記のような更生援護のため(なお、申請理由のとおり○○○○会への帰住調整が図られており、少年においてもこれを強く希望するに至つている。)、保護観察に付する目的で収容継続をなしたうえ、遅滞なく少年を仮退院させることが必要かつ妥当であると認められる。そして、その期間は、少年の頻回転職歴に照らすと、就務先へ定着するまでの期間もある程度見込んでおく必要があるので、昭和五四年七月二〇日を限度とするのを相当と考える。

よつて少年院法一一条四項により主文のとおり決定する。

(裁判官 坂井満)

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